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klarer-himmel13's diary

(旧)図書館の中では走らないでください!から

日本図書館研究会 情報組織化研究グループ11月例研究会

図書館 行ってきました

情報組織化研究グループ11月例会に参加してきました。
今回は「著作」というテーマに関わる理論の紹介、そこから行われた調査について、宮田洋輔氏に発表していただきました。
以下、メモおよびまとめ記事になります。不足/間違いなどコメントいただければ幸いです。

日時:2009/11/14(土)
場所:大阪市立浪速人権文化センター
テーマ:「著作」の理論と書誌的家系の諸相
発表者:宮田洋輔氏(慶應義塾大学大学院文学研究科)
発表の主眼:

  • 著作とはなにか?何のためか?
  • 図書館目録における書誌的家系のひろがり
  • 目録作成者間での「著作」の認識の一致
1.  Smiragliaの「著作」の理論

情報検索の対象として「著作」への関心が高まっている状況をうけ、米国の研究者Richard P. Smiraglia*1の著作“The Nature of "a Work" : Implication for the Organization of Knowledge”(Scarecrow, 2001)を踏まえつつ、彼の「著作」の理論が紹介された。
1.1 著作の性質とは何か
書誌的家系の考えはPatrick Wilson(1928-2003)*2に由来する。彼は書誌コントロールの枠組みを以下のようにとらえている。
「すべての知識」のサブセットとして「書誌宇宙」を位置づけ、その書誌宇宙がコントロールを受け、「記述的領域(目録・索引の作成)」と「実践的領域」で利用される。そしてその利用は知識の生産へ繋がる。この書誌宇宙内の書誌的実体は物理的特性と知的特性(=著作)を持ち、たがいに関連する。*3
Smiragliaはこの関連に注目し、この点か整理することで文献検索システムを設計できるのではないかと考えた。
1.2 英米の目録作成における著作の概念:歴史的物語
Smiragliaは1600年代後半のThomas Hydeから現代まで、「著作」の理論に関わる歴史を概観する。最後に上述したPatrick Wilsonによる著作のとらえ方を紹介された。
Wilsonによると、著作(work)はテキスト(text)、実例(exampler)と実現される。テキストとは記号的なものであり、実例とはこの本といった目の前にある「著作」のことである。実現のされかたも複数あり、それらを書誌的家系(bibliiographic family)が横たわっている。
1.3 著作の概念につい特徴を与える書誌的関連
まず、著作の定義をSmiragliaはこのように定義する。(1992年)

著作は、書誌的実体の知的内容である。いかなる著作も、a)観念的内容を形成する、表現された命題、b)意味的内容を形成する、それらの命題の表現(一般的に言語的(音楽など)な文字列の集合)、の二つの特性を持つ。

著作は固有の観念的内容(idea)を表現する意味的な文字列の集合において固定される、これらの定義は書誌的家系の概念へとつながる。
また書誌的関連の歴史的な変遷や議論を踏まえて「著作」における合意は、以下の6つである。

  • 著作は抽象的概念である
  • 著作は、概念的内容と意味的内容からなる
  • 著作は、一度表現されると、さまざまな物理的なあらわれ(Manifestation)をとる
  • 時が経つにつれ、著作の実現は観念的内容か意味的内容かあるいはその両方で、変化するかもしれない
  • 観念的内容と意味的内容における変化の度合いが、テキストが新しい著作を著しているかどうかを決める
  • 著作の間の関連は複雑であるが、関係の分類によってそれらを情報検索で明示的に表現できる

「著作」概念の有名な例に1997年にIFLAより提出されたFRBR(書誌レコードの機能用件)がある。著作実体の設定、著作の生産、関連のタイプと類似点はあるが、FRBRは階層的な視点を用い、「表現形(Expression)」とう実体は用いていない。
書誌的関連の中でも「派生」関連にSmiragliaは注目し、派生的関連を「同時派生・継続派生・翻訳・拡張・抽出・改作・実演・先行」に分類した。
1.4 創作活動についての覚書:言語学、哲学、記号論、書誌学
タイトルが示す通り、他分野の研究成果から、文化的現象の特徴と可変性に著作の社会的役割を述べる。可変性とは著作が一度公開されると本質的にさまざまな形で可変的なものとなるという意味である。変化することにより、関連も生まれてくる。
1.5 量的側面からの著作の定義
派生的関連の調査
1.6 書誌的家系の形成
量的分析を受け、質的分析の結果、以下の結論を導いた。

  • 著作の社会的な役割による可変性の反応
  • 著作(書誌的家系)の構造の複雑さ
  • 文化的・商業的・技術的な力の触媒作用
  • 正典になると変化し、共同的な実体となる

1.7 著作の理論に向けて向けて
あらためて著作とは「意味的あるいは記号的表現による実現によって認識される観念的思考をしめす具体的な集合」*4であると定義される。そして著作の理論は以下の特徴をもつ。

  • 著作は書誌的実体の知的内容である
  • 著作はパースによる記号の特徴を持っている
  • 文化の正典となるであろう著作は、派生的変化の家計を生み出しやすい
  • 変化し始めた著作は、時間とともに共同的な現象となりうる
  • おもに祖先著作の年齢といくつかの学問との、文献のいくつかの限定された書誌的特徴は、書誌的宇宙においてどの著作が書誌的家系の広がりにおいて、正典となるのかの予測に使うことができる
  • 観念的内容あるいは意味的内容における相当な変化は、新しいが、関連する著作の創作に帰着する

そして知の組織化への示唆と課題として、著作特定的知識組織化システムの実現、統一的な著作識別子の必要性、電子的な著作のコントロール、予測のためのさらなる研究をあげている。
その後の著作の理論について宮田氏から補足説明があった。Smiragliaは書誌的家系ではなく、「インスタンス化ネットワーク(instantiation network)」という用語を使用している。これは電子的資料なども視野に入れたためということであった。

2. J-BISCを用いた調査と比較分析

著作の理論を踏まえて、宮田氏が行った調査の発表*5
まず、J-BISCから抽出した1,000件から669件へ標本を構築し*6、分析した。
抽出枠は2005年1月までに入力されたレコードである。信頼区分95%書誌ファミリーの割合の概算値36%、誤差5%に収まるために273件の著作が必要、そのために1,000件のレコードを抽出した。調査の課題は日本の図書館目録において、1.どれくらいの著作に派生が存在するのか、2.書誌的家系の大きさはどれくらいか、3.派生の関係種別はどのように分布しているか、4.日本の図書館目録に現れる書誌的家系に固有の特徴はあるのか、である。結果だけまとめると以下のようになる。

  1. 全体の約1/4にあたる25.9%±3.5%に派生あり
  2. そのうち76.3%±6.1%は1種類の派生
  3. 継続派生が6割近く
  4. 欧米の書誌ユーティリティの調査と比べて日本の図書館目録に相違点は見られず、蔵書構成を軸とした普遍性が見られるのか

また派生をもった家系の割合、祖先著作の年齢と派生の割合の回帰式は、y=0.16+0.005x,r²=0.28
書誌的家系の大きさ、祖先著作の年齢と家系の大きさの回帰式は、y=1.13+0.02x,r²=0.05
これらの結果と欧米の調査結果と比較しても、同様の傾向を示した。

3. 著作同定における一貫性

2の調査を踏まえ、目録作成者間/目録作成者-利用者間で著作の認識の一貫性の程度を明らかするために、FRBRの枠組みの中でどの程度の一致/不一致があるのかを調査した。
この調査において著作を「著作Wは、表現形Emと体現形Mnとその間の関連R(Em,Mn)」からなる集合」と定義している。また一貫性の尺度にはHooperの方程式*7を用いた。参加者は大学図書館員6名、国立図書館員1名、対象著作は(ノン)フィクションあわせて5件、NACSIS-Webcatで実体を検索・同定し、シートにて回答という方法をとった。以下のような結果である。

  • 著作によってばらつきが大きい
  • 表現形における一貫性が低い(平均:体現形54.1%, 表現形37.1%)
  • 著作タイプ(フィクション/ノンフィクション)での差は表現形において現れる
  • 体現形、表現形のどちらの同定理由(上位5件)の7-8割近くが責任表示とタイトルである

目録作成者間での著作同定における一貫性は高くないため、FRBRの実践に向けて概念の厳密化・明確化(そのためのガイドライン)、作成を支援するツールの開発などが指摘された。

4.おわりに
  • 「著作」の理論は図書館目録研究の1領域であるが、他の分野との関係性ももつ
  • 書誌的家系は日本の図書館目録でも有効であるが、家系の予測にはまだ不十分である
  • 著作同定には認識の非一貫性が課題であり、研究枠組みのさらなる洗練が必要

さらに「著作」を基盤とした検索システムについても指摘があった。粒度の粗さという難点もあるが、図書館目録独自の関連資料の提示の可能性もある。ただし、検索の基盤としては「テキスト」(体現形)レベルが妥当ではないかということ。

(以下コメント・感想)
「著作」についてFRBR以外の理論にはじめて触れる機会でした。
また、FRBRとSmiragliaの「著作」の違い、インスタンス化ネットワークと言いかえた点、それらが持つ具体性などが質問時に出されました。また、ガイドラインや作成支援ツール開発を単純に期待しました。
うまく消化できていない部分も多いですが、これに刺激を受けて、しばらく放っておいた色々なネタを再開してみたいと思います。
ありがとうございました。

                                                                          • -

ブックマークまとめ
b:id:klarer-himmel13:t:日記用20091115

*1:http://myweb.cwpost.liu.edu/RSmiragl/ (accessed 2009/11/15)

*2:[http://en.wikipedia.org/wiki/Patrick_Wilson_(librarian):title=Patrick Wilson (librarian)](accessed 2009/11/15)

*3:ただしWilsonの著作概念には家系としての「著作」とその中のメンバーとしての「著作」の両方を含む。家系については後述する。

*4:p.129

*5:2007年9月から11月にかけて実施

*6:雑誌・アンソロジー、家系中のより古い著作のレコードが抽出枠に含まれたもの、複数巻からなる著作のうち最初の巻以外を除外

*7:CP=A/(A+M+N),A:2人の作成者で一致した実体数, M,N:1人の作成者だけいの実体数