21世紀の科学技術リテラシー第3回シンポジウム
日時:2010年2月6日(土)13:00-16:50
会場:ベルサール九段
主催:独立行政法人科学技術振興機構社会技術研究開発センター
プログラム:
- 先端研究者による青少年の科学技術リテラシーの向上
- 自律型対話プログラムによる科学技術リテラシーの育成
- 大塚裕子氏(財団法人計量計画研究所言語・行動研究室 主任研究員)
- 科学技術リテラシーの実態調査と社会的活動傾向別教育プログラムの開発
- 西條美紀氏(東京工業大学留学生センター/統合研究院 教授)
- 文理横断的教科書を活用した神経科学リテラシーの向上
- 信原幸弘氏(東京大学大学院総合文化研究科 教授)
- コーヒーブレイク・ポスターセッション
- 共有する場
- 閉会挨拶 村上陽一郎氏(領域総括)
公式サイト:http://www.ech.co.jp/jst_ristex_rit_sympo3/
今回のシンポジウムでは、独立行政法人科学技術振興機関社会技術研究センターの「科学技術と人間」研究開発領域のなかのプログラムの一つである「21世紀の科学技術リテラシー」*1における採択課題の成果を発表していてただきました。リテラシー問題は「科学技術と社会の相互作用」*2の中で扱うこととなり、「21世紀の科学技術リテラシー」は今回のシンポジウムが最後の成果となるそうです。
また、今回のシンポジウムは試験的に中継をとりいれたということです。会場の前方中心には、中継班の方々がいらっしゃり、USTREAM(中継のみ)とtwitterが導入されていました。
twitterまとめ(ハッシュタグは「 #s_literacy」)
http://togetter.com/li/5073
当日配布された資料はこちらにあります
http://www.ech.co.jp/jst_ristex_rit_sympo3/#3*3
以下、まとめていきたいと思います。なおメモが追いついていない、不適切な箇所等をコメントいただければ幸いです。
各プロジェクトの発表の前に有本氏と村上氏のご挨拶から、メモを残したトピックについて記します。
- 有本氏
- 村上氏
- (科学技術)リテラシーとは?
- 21世紀の社会を生きる一人ひとりが、生きていく上で、様々な決断を下す場面で、愚かな決断を避け、合理的な決断を下すための下地
- 専門領域への市民参加の素養
- 科学技術への健全なサポートや批判
- (科学技術)リテラシーとは?
先端研究者による青少年の科学技術リテラシーの向上
- 背景
- 研究者が科学技術のブラックボックス化に対して、青少年の科学技術リテラシー向上のために何ができるか
- それを考える際に「一般市民は科学技術について知識が乏しい」という欠如モデルからの脱出
- 目標・目的
- 実施内容
- 全体のシステム構築・具体的なプロトタイプの提案
- 出張授業:ロボット、デジカメなど(扱うテーマは工学が中心)
- 貸出教材の開発:「金属・材料を調べてみよう」など
- まとめ
- 開発、測定の方法について
- モニタリング・ケーススタディの結果をフィードバックすることで一方向ではない手法
- 効果測定のアンケートには質問に具体的な選択肢を用意することにより、正確な効果測定が可能
- 生徒への効果について
- 出張授業は科学技術リテラシー向上のための「科学技術を伝える」モデルになる
- ただし、一度の出張授業では向上した科学技術に対する興味・関心や個人のもつイメージを維持できない
- 開発、測定の方法について
- 今後の課題と展開
自律型対話プログラムによる科学技術リテラシーの育成*6
- 背景
- 科学技術への市民参加の活発化と話し合いの進行に関わる参加者の多様性(誰が参加者の舵取りをするのか)
- ファシリテーターやメディテータ-などの媒介者ではなく、参加する各個人の「対話力」の向上
- 目標
- 対話コミュニケーションプロセスの評価指標の作成
- 対話力をみにつける場をつくる教育プログラムの実践
- 対話コミュニケーション評価指標
- ディスカッションの収録・分析:各場面の印象評定/因子分析/各場面の因子得点+転記作成/議論プロセスの談話分析から、プロセスと評価との関係性を分析
- 議論プロセス評価ポイントの抽出
- 授業モデル「自立型対話プログラム」
- 大学生の科学技術リテラシーを育成するために、対話力を中心としたコミュニケーション能力を高める教育プログラム
- 大学教員が活用できるようにパッケージ化されている
- 特徴としてプレゼンテーションを2回行う
- 成果の社会での活用・展開
- 受賞、論文やシンポジウム、出版、継続的なワークショップ
- プロジェクトメンバー以外の大学での実践
科学技術リテラシーの実態調査と社会的活動傾向別教育プログラムの開発
分離横断的教科書を活用した神経科学リテラシーの向上
- 脳神経科学リテラシーの向上とは:一般市民の脳神経科学リテラシー向上+脳神経科学者の社会リテラシーの向上
- そのために脳神経科学リテラシーの教科書の作成と大学の教養教育での授業を実施
- 教科書の作成のための調査・考察
- 脳神経科学者と科学哲学者、応用倫理学者の共同研究
- 脳神経科学者のどんな研究が生活と社会にどんな重要な影響をもたらすのか
- 脳神経科学者の方法論的特徴はどのようなものか
- 一般市民にとって重要な脳神経科学の基礎的知識とその社会的意義・影響に関する教科書、授業用スライド
- 脳神経科学者と科学哲学者、応用倫理学者の共同研究
- 上記を用いた授業の実施
- 授業評価アンケートの結果の分析
- 分析、脳神経科学リテラシーの構成要素の抽出、教科書改善に利用
- 脳神経科学リテラシーとはどんな知か
ここでコーヒーブレイクタイムとポスターセッションを挟んで後半のディスカッションへ移ります。
共有する場
難波美帆氏(独立行政法人科学技術振興機構 広報ポータル部)
大島まり氏(東京大学大学院情報学環・生産技術研究所 教授)
大塚裕子氏(財団法人計量計画研究所言語・行動研究室 主任研究員)
西條美紀氏(東京工業大学留学生センター/統合研究院 教授)
信原幸弘氏(東京大学大学院総合文化研究科 教授)
塩瀬隆之氏(京都大学総合博物館 准教授)
長神風二氏(東北大学脳科学グローバルCOE 特任准教授)
難波さんが全体の司会を、そして長神さんから大島さんと大塚さん、塩瀬さんから西條さんと信原さんへの質問から始まりました。以下は当日のメモを整理したものです。聞き漏らした点などが多いですがご容赦下さい。
- 長神氏
- 4つのC(content,context,community,communication)のうち、後半の2つについてが課題ではないか
- 4つのプロジェクト同士のつながり
- コミュニティへ研究者が入って行くことはできているのか
- (大島氏へ)継続性について
- (大島氏へ)メディアとの関係について(科学政策に大きく影響する政治家やマスコミを輩出する総合大学としてのリテラシーは?)
- (大塚氏へ)今後の展開や広め方について
- 大島氏
- 出張授業の後の重要性、学校のフォローが大切
- 色々な研究者が出張授業を
- それぞれの学校の文脈(context)を考慮した授業づくり
- メディアとの合同の勉強会
- 大塚氏
- 塩瀬氏
- 西條氏
- 信原氏
- 会場からの質問者(その1)
- (大島氏へ)実験結果、青少年の科学技術への興味・関心などが下がった原因?また、それへの対処は
- (信原氏へ)倫理との問題をどのように扱ったのか
- 大島氏:すべてが下がったわけではなく、レベルを保った例もある。それは学校のフォローアップが貢献したと考えられるため、学校と連携することで継続していきたい
- 信原氏:脳神経科学リテラシーは、脳神経にまつわる倫理学を議論するための下地であり、倫理的な問題への解決は示さないようにしている
- 会場からの質問者(その2):非研究者への理解を研究者同士のなかで共有するためには?
- 西條氏:違いを自覚すること、場を設計して双方向で進める
- 大島氏:相手は何をしらないのか、何を共有できるかを知る
- 大塚氏:東工大で近隣住民を招いた授業で「(一定時間)先生は喋らないように」という取り組みをした。
- 信原氏:知識などの違いを理解すること
- 会場からの質問者(その3):「科学技術」は矛盾した語のように感じる
- 大島氏:科学と技術は切り離して語ることができないもの
- 信原氏:基礎科学と応用科学のバランス
- 会場からの発言者:例えば動物愛護団体に動物実験をどう説明するのかという問題
最後にまとめとして、難波氏より継続のために求めるサポートは?という質問に対して、マンパワー、資金、体制づくりなどが挙がりました。また、広報のノウハウを知りたい、退職した先生方の参加を募りたいという意見も聞かれました。
最後に、個人的な雑感を。
会場は学生と思われる方20代の方から、60代の方まではば広く、たくさんの参加がありました。発表された4つのプログラムについては各々の専門分野も異なりますが、アンケートや調査をはじめ、それらの統計方法、分析手法など、対象へのリサーチを徹底的に行った発表を聞いて、とても勉強になりました。対象者がリテラシーを身につけるだけでなく、研究者自身にも影響(社会リテラシーや自分の研究の認知度の向上)するという話は興味深かったです。西條さんの発表は実践のリテラシー教育のみならず、そのための材料(方法)を提供されていましたが、これは科学技術リテラシーだけでなく他の場合にも使えるのではないかなと思います。
専門研究者が非研究者、あるいは他のコミュニティへ入り、関わっていくことの難しさと重要性を感じました。会場でもコメントされていましたが、研究者同士(同じ分野にしろ、違う分野しにろ)の連携、あるいは所属機関の非研究者(秘書、務職員、あるいは図書館員?)との関係にも興味がわきました。
また、学校や大学を卒業した社会人の場合(さらに興味関心のない人)はどこに行けばいいのだろう、と考えた時にメディアなのか、あるいは教育機関(それが単に学校や大学だけを指すのか)という場を利用するのだろうか、などなど色々頭をよぎっては消えていった濃い4時間でした。
「科学技術リテラシー」というピンとくるような、しかし突き詰めるとどんどん話が膨らんでいく中で、以上のような感想をいだきました。
今回、USTREAMとtwitterを利用して中継が試みられました。公式に設けてあり、おもしろい取組だと思いました。少しだけ贅沢を言うと、シンポジウムのサイト*8にリンクなどを貼っていただけたらそこから、中継まで簡単にリンクを辿っていけるので便利だと思います。
公式にUSTREAM中継やtwitterをされていたスタッフの方々も、個人的にtwitterをつかって実況をしていらっしゃった方、ありがとうございました。また資料をサイトにアップしていただき、シンポジウム後1週間もたってしまってもブログを書くことができて、大変助かりました。
*1:全10プロジェクトが採択され、今回は平成18年度に採択されたプロジェクトに焦点をあてて開催しています。それぞれの研究期間は3年間です。参考:http://www.ristex.jp/examin/science/literacy/index.html (accessed 2010/2/14)
*2:「科学技術と人間」研究開発領域のもうひとつのプログラム。社会技術研究開発センターHPより参考:http://www.ristex.jp/examin/science/interaction/index.html (accessed 2010/2/11)
*3:「21世紀の科学技術リテラシー 第3回シンポジウム」HPよりaccecced2101/2/11
*4:スーパーサイエンスハイスクールの略称。理数系教育の充実を図り、大学や研究機関とも連携してカリキュラムを開発している。HP:http://ssh.jst.go.jp/ (accessed 2010/2/11)より
*5:サイエンス・パートナーシップ・プロジェクトの略称。学校等と大学・科学館等との連携により、科学技術、理科、数学に関する観察、実験、実習等の体験的・問題解決的な学習活動を実施する際の経費支援等を行う。HP:http://spp.jst.go.jp/index.html (accessed 2010/2/11)より
*6:参考 LSSL 研究開発プロジェクト「自律型対話プログラムによる科学技術リテラシーの育成」:http://www.lssl.jp/ (accessed 2010/2/11)
*7:興味分野、自己の態度・関心、科学技術と社会に対する評価、科学的思考法・社会的判断、属性を問う
*8:http://www.ech.co.jp/jst_ristex_rit_sympo3/