klarer-himmel13's diary

(旧)図書館の中では走らないでください!から

情報組織化研究グループ「東アジアの目録規則」

日時:2011年1月8日(土)10:20-17:00
場所:キャンパスポート大阪
講演者:李常慶氏(中国・北京大学信息管理系)、崔錫斗氏(韓国・漢城大学知識情報学部)、渡邊隆弘氏(帝塚山学院大学人間学部)
概要:中国・韓国・日本の3国は、それぞれ独自の目録規則の伝統を持っている。世界的に見れば、各国が独自の目録規則を維持している地域は、欧州以外では東アジアしかない。しかし、少なくとも日本では、常に英語圏の規則と対置させる形で自国の目録法が語られ、隣国の規則を視野に入れることは多くなかった。今回は、両国から図書館情報学の専門家をお招きし、(日本を含む)それぞれの国の動向を交換しあい、議論したい。
コーディネーター:田窪直規氏(近畿大学)
コメンテーター:小島浩之氏(東京大学経済学研究科資料室) 高橋菜奈子氏(国立情報学研究科)

発表1「中国における目録学発展およびその研究動向」(李常慶氏)
  • 所属の「信息管理系」とは日本の「図書館情報学」にあたる
  • ご自身の専門は四庫全書、出版文化について。今回は自分も勉強する意味で発表を引き受けた
  • 中国における目録学の発展およびその研究動向
    • 紀元前1世紀の『別略』(劉向)や『七略』(劉〓)
      • 劉向は最初に作者の紹介、要旨などの内容分析を行った
      • 劉〓は儒教思想を指導方針とした書誌分類体系を作った
    • 3世紀の『中経新簿』(西晋・荀勗)や7世紀の『隋書・経籍志』
    • 北宋*1の蘇象先の『蘇魏公譚訓』で、はじめて「目録之学」という言葉を使用(研究対象となった)
    • 12世紀、南宋の鄭樵が『通志・校讎学』*2を作り、中国における目録学の最初の専門書となる
    • 18世紀末、『四庫全書総目提要』(200巻)が編纂
    • 中国には二千年以上、目録をつくる歴史があり、解題を付した目録と純然たる目録(簡略な叙文がつく)
    • 20世紀以降、東西の文化交流によりいくつかの流派が形成される
    • やがて、西洋の図書目録規則の影響を受けて2つの流派が形成される
      • 英米目録規則などを真似て、著者基本記入とする、検索機能をより求めるようになる(杜定友『中文図書編目法』*31921年など)
      • 中国の伝統的な目録を継承しながら、西洋図書目録規則を参考とするもの(劉国鈞『中文図書編目条例』1928年など)
    • 後者が目録界の主流となるが、21世紀になると前者の影響力が再浮上
    • 1990年代、コンピュータによる目録編成とオンライン目録へ移行(その時期や広がり方は地域差があり、現在もカード目録を使用している図書館もある)
    • 1998年、広東省文献編目センターがオンライン目録機構を設置
  • 中国における目録規則の概要およびその動向
    • 『文献著録総則』*4
      • 目録規則ではなく「規格」にあたり、法的拘束力を持つ
      • 1983年7月に公表され、翌年4月より実施される
      • 記述項目および配列順序、記述用区切り記号、記述用文字、記述情報源、記述項目細則などを含む
    • その他、『普通図書著録規則』(1985年)、『連続出版物著録規則』(1985年)、『非図書資料著録規則』(1985年)、『トウ*5案著録規則』(1985年)、『地図資料著録規則』(1986年)、『古籍著録規則』(1987年)、『楽譜資料著録規則』(1991年)
    • 『中国文献編目規則』
      • 1996年編纂完成、公表
      • 事務局は国家図書館であるが、編纂委員は中国図書館学会からの研究者から構成される
      • 目録の記述原則および目録標準規則
      • パリ原則、ISBDに基づく
      • AACR2を参考にし、記述項目を前に集中させ、アクセスポイントを後ろに付ける
      • 検索キーワードの大衆化原則
      • 記述法(15章)と標目法(4章)、全19章から構成
      • 適応範囲は中国語文献、洋書文献はAACR2、日本語文献はNCRを採用する
    • 『中国文献編目規則』改訂
      • 2001年より開始
      • 地図資料、逐次刊行物、コンピュータファイルを「測量地図製作資料」「連続性資源」「電子資源」に改名、補足
      • ISBD1992年版、GB3792.1最新版、AACR2/2002年版などに基づく
      • 団体標目の増加、標目選定の規則を制定(異なるタイトルを参照形にせず、並列タイトルに等)
      • 各章の終わりには10個の実例をつける
  • 中国におけるISBD、FRBR、FRAD、RDAなどへの対応
    • 中国語への翻訳、内容紹介
    • FRBRへの対応
      • 目録の統一典拠化、中国語名称典拠データベースの開発(国家図書館)
      • データベース間のすりあわせ
      • CNMARCから他のMARCへの変換
    • 目録の理念が教条主義的なものから、実用主義的なものへ転換しつつある
  • 中国における目録編成の現状と課題
    • 目録センターが多い
      • 国家図書館による目録センター(主に公共図書館が参加)
      • 中国高等教育文献保障システムプロジェクト(CALIS)(主に大学図書館が参加)
      • 中国科学デジタル図書館プロジェクト(CSDL)(主に研究所図書館が参加)
      • 深〓図書館をはじめとするCRL net
      • 中関村地区教育および科学件k集モデルネットワーク(NCFC)の中関村地区書目文献情報共同使用システム*6
      • 粤深文献処理センターや上海翔華図書有限会社など、図書館と出版社などで共同の目録編成機構
      • 地方レベルのMARCや書誌ユーティリティがある
      • ネットワークにつながっていない図書館(タイムラグのある集中型目録は利用しにくい)や、CNMARCにない地方文献があるため地方すべてをCNMARCに統一することも難しい
    • 目録システムの種類が多く、頻繁にリプレイスが行われている
    • 書誌データ製品が少なく、重複購入が起こる
    • 重複書誌
発表2「韓国目録研究の動向」(崔錫斗氏)
  • 韓国目録規則の歴史
    • 東西編目規則(1948年,朴奉石)
    • 韓銀図書編目法(1954年)
      • 著者基本記入を既定
      • 標目の選定と形式を重要視
    • 韓国目録規則(1964年,韓国図書館協会)1、2版
      • 英米目録規則の著者基本記入に準拠
      • 標目の選定、標目の形式、記述目録規則
    • 韓国目録規則(1983年,韓国図書館協会)3版
      • ISBD準拠
      • 記述単位目録を受容することで標目と記述の独立
  • KCRの現在
    • 韓国目録規則(2003年,韓国図書館協会)4版
      • 標目既定を除外(暗黙的には典拠で処理)
      • それぞれの形態の資料ごとに制定
      • 使用用語の変更
      • 責任表示には著者数に対する制限規定を緩和(複数著者の場合でも、Body部分に全著者を記述)
      • 責任表示の著者の記述を変更(責任表示を必須にし、KOMARCと一致させる)
      • 並列タイトルのカテゴリを修正(原タイトルとして項目を独立)
  • KOMARCについて
    • USMARCフォーマットを基礎として、資料形態別に制定した
    • MARC21を基盤に改定
    • 基本標目(Tag 1XX)は必須から、図書館ごとに適応を決定できるようにMandatory if applicableへ変更
      • KOMARCを作成する際に、基本標目を除外するのは一般的であり、Tag 7XX(副出標目)に記述
      • 1XXはKOMARCに入っていない
  • 典拠について
    • KCR4には標目に関する既定が、基本標目・副出標目ともにない
    • 1XX(基本標目)、代表形表現(典拠形)を持たなくても、索引・検索ができる仕組み
      • 検索結果を検索が上位に来るようにシステム上、工夫するなど
    • 延世大学校、梨花女子大学校、ソウル大学校、中央図書館による書誌統合実験
      • 各館で典拠データを作成しているが、他館で利用不可、フォーマットも異なる
    • 現況では標目も典拠もないので、中央図書館が各館で作成できるように教育している
    • 全館が利用出来る典拠データを上記の4館で準備中
  • おわりに
    • KCR4の管理及び維持は韓国図書館協会の目録員会が担当
    • 国際的な目録動向の研究や活動は国立中央図書館が担当
    • いまのところ、KCR4改定の予定はない、FRBR、FRAD、FRSAD、RDAなどの動向が固まってから改定すべき
    • 私見としてはISBD、RULEがこれらを反映して改定して定着する時点でKCRの改定が検討される
発表3「日本における目録法の動向」(渡邊隆弘氏)
  • 日本目録規則の歴史と現状
    • 日本目録規則最新版:1987年版改訂3版(2006年,日本図書館協会)
    • 記述(全13章+附則)、標目(全6章+附則)、排列(全5章)から構成
    • 初期の規則(NCR1965まで)は、書名基本記入方式であり、次第に著者名基本記入へ
    • 国際的標準(パリ原則など)への対応
    • NCR1965への批判
      • 基本記入方式の是非をめぐる議論のなかで記述独立方式へ
      • 公共図書館サービスの発展の中で目録簡略化の主張
    • NCR1987
      • 記述独立方式(記述ユニット方式)
      • ISBD区切り記号の導入
      • 「書誌階層」「書誌単位」の考え方の導入
  • 日本における目録作成の現状
    • 国立国会図書館
      • 日本全国書誌(1948年-)
      • JAPANMARC(1981年-)
      • NCR1987を適応(書誌階層の考え方は徹底していない)
    • 公共図書館
      • 民間MARCの利用
      • NCR1987を適応(書誌階層の考え方は徹底していない)
      • 目録業務はアウトソーシング
    • 大学図書館
      • 書誌ユーティリティNACSIS-CATによる共同分担目録
      • 各種MARCの参照利用はあるが、元のMARCレコードとの同期は保障されない
      • 和資料はNCR1987、洋資料はAACR2(どちらも基本記入方式は採用せず)
      • 集合・単行書誌単位をもとにレコードを作成
    • 目録作成の今後
      • JAPANMARCをもっと普及させて「一元化」?
      • NDL新着図書情報*7(2010.10-)
  • 新しい目録法の潮流と日本
    • 日本におけるFRBR紹介・研究(1997年-)(網羅的な文献リストではないが紹介されたもの)
      • 和中幹雄「AACR2改訂とFRBRをめぐって−目録法の最新動向−」*8
      • 和中幹雄「FRBRとはなにか--その意義と課題」*9
      • 和中幹雄・古川肇・永田治樹訳「書誌レコードの機能要件」*10
      • 谷口祥一「書誌的実体設定における二つの観点から見た三層構造モデルとIFLA FRBRモデル」*11
      • 谷口祥一「テキストレベル実体を基盤にした概念モデルと書誌レコード作成」『図書館目録とメタデータ
      • 鴇田拓哉「電子資料を対象にしたFRBRモデルの展開」*12
      • 和中幹雄「FRBRにおける「著作」概念の特徴とNCR改訂の方向性」*13
      • 谷口祥一「FRBRのその後--FRBR目録規則? FRBR OPAC?[含 討議報告]」*14
      • 和中幹雄「目録に関わる原則と概念モデル策定の動向」*15
      • 橋詰秋子「FRBRから見た日本のMARCの特徴」*16
      • 宮田洋輔「日本の図書館目録における書誌的家系 : J-BISCにおける調査と先行研究との比較分析」*17
      • 谷口祥一「FRBR OPAC構築に向けた著作の機械的同定法の検証 : JAPAN/MARC書誌レコードによる実験」*18
      • 橋詰秋子「FRBRからみたJapan/MARCの特徴 : 「著作」を中心に」*19
    • 日本におけるRDA紹介・研究(2010年-)(網羅的な文献リストではないが紹介されたもの)
      • 古川肇氏の研究
      • 「未来の記述規則--AACR3第1部案からRDA第1部案へ」
      • 「未来の書誌レコードに関する規則--RDA第1部案からRDAパートA案へ」
      • 「未来の書誌レコードに関する規則(続) メタデータスキーマとの調整へ」
      • 「未来のアクセスポイントに関する規則 ―構造の再構築へ―」*20
      • 「未来の書誌レコードおよび典拠レコードに関する規則 −RDA全体草案の完成−」*21
      • 「書誌レコードおよび典拠レコードに関する規則の成立 −RDAの完成−」*22
    • 日本におけるICP紹介・研究(網羅的な文献リストではないが紹介されたもの)
      • 稲濱みのる「新しい国際目録原則に向けて」*23
      • 永田直樹他「第4回IFLA国際目録規則専門家会議」*24
      • 橋詰秋子「書誌レコードの機能要件(FRBR)と新しい国際目録原則覚書--目録の今後の方向性」*25
      • 和中幹雄「「国際目録原則覚書」における「一般原則」について」*26
      • 渡邊隆弘「「国際目録原則覚書」策定過程の諸論点 草案の変遷から」*27
    • 「日本としての参加(JLA目録員会)
      • ICP国際目録原則(2009年)、ISBD国際標準書誌記述の改訂(2011年?)
  • 日本目録規則」の次期改訂
    • 「抜本的見直しによる201X年版が必要」*28
    • 「資料のもつ潜在的利用可能性を最大限に顕在化する道具であるべき」
      • 資料の多様化への対応
      • 典拠コントロールの拡大、リンク機能の実現
    • RDAの翻訳ではなく新「日本目録規則
      • 基本記入方式と書誌階層の考え方は維持したい
      • RDAは全レコードにう統一タイトルを記入するが現実的ではない
      • FRBRモデルに基づきながら日本の状況を踏まえた現実的な規則性
    • 規定範囲はエレメント(Element)の定義に限定
      • エンコーディング(区切り記号とか)は扱わない
    • エレメントの増強
    • 典拠コントロールと標目
      • 典拠コントロールを重視
      • 現行の統一タイトル(Uniform tile)も見直し
      • 典拠形アクセスポイントとして著者名+統一タイトル
    • 関連(Relationship)
      • FRBRモデルの関連規定への対応を今後検討
  • おわりに
    • 目録規則の改訂は現場のほとんどの図書化人にとってはじめての経験
    • FRBR化、Work化の同定は著者基本記入のアルゴリズムでプログラムを作成する
    • 日中韓での協力?
      • 書誌階層の考え方は維持するが、構成書誌単位の関係の規定整備が必要
パネルディスカッション
  • コメンテータ、発表者から補足など
  • 李氏:コンテンツがあって目録作成では遅い。コンテンツ発生時に検索できるのが理想的
  • 小島氏:(中国での用語説明をいただきましたが、発表の注記に追記したので割愛します)
  • 高橋氏:
    • NACSIS-CATの言語ごとの割合は、中国語5%、韓国語1%
    • 規則はNCRを適応している
    • 転記の原則、DBのUSC化、漢字統合indexやハングル検索にも対応
    • 著者名典拠はタグではなく項目ごとに記入、統一標目形あり
    • HDNGを著作でしようされている言語で決定している
    • 崔氏へ質問:典拠登録プロジェクト(統一形はなく、検索語を上位に表示するシステム)では、同姓同名の処理はどうしているか?参考にした規則などはあるか?
  • 崔氏:IDは意味内容(各項目)をコーディング規則に則って付与している、ハングル→漢字表記(同じハングル表記でも漢字が異なるため)→生没年→職業の順
  • フロア:統一タイトルに付いて
  • 李氏:中国名称典拠データベースというものがある
  • 崔氏:例えば原作と翻訳物は「別の」ものとして捉えている。書誌事項を入れ子型にして関係付はする
  • フロア:OCLCの目録統合化、中韓の対応は?
  • 両氏:分からない
  • フロア:日本語の本を目録取る際、規則は何を使用しているか?また苦労することは?
  • 崔氏:日本語の音が分からないのでハングルが当てられない。漢字を中国語読みすることもある。MARCはKORMARCやUSMARC
  • 李氏:日本語の著者名は分からないので苦労した。NCR中国版がある
                                        • -

6時間に渡る盛り沢山な内容で、一部記憶と記録があやふやです。
訂正などがありましたら、コメント欄などでお願いします。

*1:後のディスカッション時に指摘されていたが、北宋自体とは学問の基礎、つまり学問を記録し保存していこうという動きができた時代であるらしい

*2:中国における文献学は大きく3つに分けることができる。正しいテキストを研究する校讎学、日本の書誌学に近い版本学、内容分析、解題の目録額である。中国での伝統的な「目録」とは内容分析を含んでおり、日本のそれとは異なっている

*3:「編目」とはcatalogingにあたる

*4:「著録」とはdescription」にあたる

*5:木編に當

*6:「書目」とはbibliographicにあたる

*7:簡略レコードを作成して一般公開。IDを付与しているため、後からリッチなデータに置き換えることもできる。CIPが普及していない現状対策。http://iss.ndl.go.jp/pbs/news/

*8:http://current.ndl.go.jp/ca1480

*9:http://ci.nii.ac.jp/naid/40006484611

*10:http://www.jla.or.jp/mokuroku/frbr_japanese.pdf

*11:http://ci.nii.ac.jp/naid/110001819140

*12:http://ci.nii.ac.jp/naid/110007087404

*13:http://ojs.info.gscc.osaka-cu.ac.jp/TS/index.php/TS/article/view/38

*14:http://ci.nii.ac.jp/naid/40016258185

*15:http://current.ndl.go.jp/ca1713

*16:http://ci.nii.ac.jp/naid/40015714178

*17:http://ci.nii.ac.jp/naid/120002317558

*18:http://ci.nii.ac.jp/naid/120002317559

*19:http://ci.nii.ac.jp/naid/110007519305

*20:http://ojs.info.gscc.osaka-cu.ac.jp/TS/index.php/TS/article/view/7

*21:http://ojs.info.gscc.osaka-cu.ac.jp/TS/index.php/TS/article/view/13

*22:http://ojs.info.gscc.osaka-cu.ac.jp/TS/index.php/TS/article/view/37

*23:http://current.ndl.go.jp/ca1571

*24:http://ci.nii.ac.jp/naid/40015171146

*25:http://ci.nii.ac.jp/naid/40016262861

*26:http://ojs.info.gscc.osaka-cu.ac.jp/TS/index.php/TS/article/view/21

*27:http://ojs.info.gscc.osaka-cu.ac.jp/TS/index.php/TS/article/view/48

*28:JLA目録委員会の改訂方針表明より。http://www.jla.or.jp/mokuroku/20100917.pdf