日本図書館研究会 情報組織化研究グループ5月月例会
6月6日(土)@大阪市立難波市民学習センター 第4研修室
発表者:和中幹雄氏
「書誌データかメタデータか―図書館目録についての意味論的な一考察―」というタイトルで発表していただきました。
- 本日のテーマ
- メタデータの定義
- Bibliographicという語の「意味」を問う
- 「書誌データ」等の用語の使用
- AACR2における用法
- Bibliographic citations, etc.(書誌(学)的引用等)
- Bibliographic history of item(資料の書誌的来歴に関する注記)
- Bibliographic volumes diffrent from physical volumes(printed monographs)(書誌的巻数)
- AACR2における用法のまとめ
- RDAにおける用法
- ISBDにおける用法
- 仮設1
- 1959年におけるエヴァ・ヴェロナの「文献単位と書誌的単位」における用法
- ISBD採用によるAACRの改訂
- 伝統的な基本記入制の放棄
- ISBD採用によるAACRの改訂
- すべての逐次刊行物をタイトル記入とすること
- 仮説2
- FRBRへの展開
- FRBRにおけるBibliographicの意味
- FRBRにおけるBibliographicの意味の一解釈
- 写本と文書との相違に関する私見
- ここでの結論
- 補論
見出しだけでもボリュームたっぷりです。これらを1時間程度で発表されたので、展開についていくのに精いっぱいでした。もとい、ついていけていません。印象に残った内容をピックアップしていきます。
- 図書館目録や書誌情報はメタデータの一類型である
- 「書誌的(Bibliographic)」の使われ方の来歴
- 伝統的には印刷物に限定した「書誌学的」という意味で使用されていた
- キーポイントはISBD制定の際、「書誌的(Bibliographic)」があらゆる資料を対象にするようになる
- 1940年代に図書館政策的な用語として「Bibliographical」といった用語が登場している
- AACRにおける「Bibliographic」
- AACRには「Bibliographic」という言葉は出てこない
- AACR2では、書誌(学)的引用、資料の書誌的来歴に関する注記、書誌的関数という3つの場合に限って登場する
- ISBDの制定により、AACRが記述独立方式に改訂され、著者基本記入を採用した
- ISBDにかかわる仮説1
- Bibliographicが図書館目録の内容を示す語として使われたのは、ISBD制定を決定したコペンハーゲン国際目録専門家会議(IMCE)からではないか
- ISBDにかかわる仮説2
- ISBDは目録の機能を実現させるための目録記入作成方法という意味をこめて「Bibliographic」を使用したのではないか
- それにより、それまでは単なる目録の構成要素にすぎなかった記述(descreption)と標目(heading)を、図書館目録作成そのものへ変えた
- FRBRにおける「Bibliographic」
- FRBRではBibliographic recordsを「図書館目録や全国書誌に記述される実体と結びついたデータの集合体」と定義づける
- 命名あるいは記述される知的・芸術的活動の成果が4つの実体(著作、表現形、体現形、個別資料)からなる事象を指す
- 4つの実体からなる事象とは、まず著者(creater)が存在し、著作(work)が生まれ、表現形、体現形、個別資料などが生まれることである(つまるところ出版物)
- 実体には著者のほかに、演奏者、翻訳者、編集者等も含んだ「読者」*2が存在する。4つの実体それぞれに対して責任を持つ実体があるというのが「Bibliographic」の特徴である
- つまり、実体には責任者(著者)が存在し、それゆえ「Bibliographic」は何らかの社会性を帯びている
最後に補論が白熱した議論を呼んでいましたので、メモを残します。
AACRにおいてもRDAにおいても、クラシック音楽の演奏者は他のポピュラー音楽と違って責任表示に入らず、注記扱いになります。和中氏によるとクラシック音楽の演奏者は、表現形の時点で「読者」が存在しているためではないか、ということでした。
例えば、翻訳者や編集者などは体現形と「版」という形で一体化しているため、責任表示として扱われるのではないかというのが、和中氏の見解でした。しかしスタジオ録音の場合、あるいはライブ音源ではポピュラー音楽との違いはどうなるのか、という思いもよぎりました。どこかで思い違いをしているのでしょうか、メモを書き起こしながらこの疑問は消えてくれませんでした。
私は図書館情報学の専門家でも研究家でも、目録のベテランでもありませんので、交わされる議論にぴっくりしていたというのが正直な感想です。ですが、図書館目録の未来を考えるのにこれまでの歴史が関係しない訳はないとおもいます。ですので、このようなお話を聞くことができるのは大変ありがたいことです。自分で読む文献はどうしても、新しいものを追いがちになります。(かつそれでも追いつきません)