PBL教育フォーラム2014「アクティブ・ラーニングにおける学習支援について考える-学習支援者としての学生の役割と、その可能性-」
日時:2014年11月08日(土)13:00~16:30
場所:同志社大学良心館104番教室
プログラム:
開会挨拶 真山 達志教授
趣旨説明 山田 和人教授
第1部<教員・学生による取組紹介>
聖路加国際大学 Team based learning:五十嵐ゆかり准教授、堀井桃氏
京都造形芸術大学 リアルワークプロジェクト:北村英之氏、吉田瑞希氏
関西大学 ラーニング・アシスタント:三浦真琴教授、山本綾香氏
同志社大学 プロジェクト科目 スチューデント・アシスタント:伊達立晶教授、木村貴幸氏
第2部<学生によるパネルディスカッション>
聖路加国際大学・京都造形芸術大学・関西大学・同志社大学
コーディネーター
山田 和人教授
簡単なメモ。教員でも教務担当でもない、(学生による学習支援に興味がある)職員視点のメモなので、多分にバイアスがかかっている点をご容赦ください。
その言葉を聞かない日は無いと言っても過言ではない「アクティブ・ラーニング」。その文脈の中で、学生が学生を支援する役割を果たすようになり、その役割の果たし方は様々だということと、学ぶことはそもそも楽しいことで、学問的足腰の強さが大切になるという点において、アクティブ・ラーニングは確かに従来型の授業とは異なる点も多いものの、全く特殊なものではないと感じた3時間でした。
同志社大学PBL推進センターは、「平成16年度より、「社会の教育力を大学に」をスローガンに掲げ、幅広い学びの保証を目的として、担当者公募制度を導入して、プロジェクト科目約25クラスを正課科目として全学部に提供」してきました。そして、この教育フォーラムも4回めを迎えたそうです。
また、この教育フォーラムは株式会社SIGERUが共催しています。
第1部<教員・学生による取組紹介>
聖路加国際大学
聖路加国際大学はTA/SA/LAのようなサポート制度はまだ導入されていませんが、TBL(Team Based Learning)を通じて、学生がお互いの学習をサポートするという仕組みを、授業を通じて作り上げた実績があります。
- 五十嵐准教授(聖路加国際大学看護学部 周産期看護学)
- 聖路加国際大学は看護系大学で、指定校規則、演習が多いという点で他大学(学部)とかなり異なる
- カリキュラムが過密
- それゆえ、学年間の交流が少ない
- プロフェッショナルな学習
- 1996年よりPBL導入
- 2012年よりTBL
- 1クラスを6名程度のチームに分けて、自宅での予習を基礎に、チームでの学習へと応用する学習
- 学習と実習への移行をスムーズにする
- 臨床現場はチーム制
- 教員はファシリテーター
- 責任性をもたせる、フィードバック、チーム分けと取り扱い、学習と結束を高める仕掛け
- チームで課題に取り組むために、予習に手抜きができない
- チーム分けはそこに操作が無いことを示している(たとえば「1歳未満の子を抱っこしたことありますか」という質問への回答でチーム分けする等)
- 責任性をもたせる、フィードバック、チーム分けと取り扱い、学習と結束を高める仕掛け
- 学習支援者に関する制度はまだない
- 今後に向けて、リソース、ロールモデル、サポーター、整える人としての「学習支援者」
- 学習支援者にとって、学び直しやキャリア教育の効果も期待できる
- 堀井桃氏(聖路加国際大学看護学部4年)
- TBLの魅力は、積極性があがる高い学習効果と、責任感・達成感・団結力の体感と実習への繋がり
- 予習課題(例:ウェスネス志向のアセスメントの視点を考えてみましょう)への取り組み
- 自分で調べ、予習課題について知識を深めてから、講義に参加
- 予習がとても大変!
- チームの仲間が勉強する姿に刺激をうける
- チームごとに得点(成績)を表示し、競争させるしかけ⇒「チームの為に」⇒チームの仲間は、学ぶ仲間であると同時に自分の学習を支え、励ます≒学習支援者⇒「実習もチームで乗り越えよう」
- 予習課題(例:ウェスネス志向のアセスメントの視点を考えてみましょう)への取り組み
- 学生が主体的に普段の学習にアクティブ・ラーニングを取り入れることで、知識の定着を促す
- 学んだことを後輩に引き継ぐ
- ビデオレターを制作
- 大学院に進学予定。今後は学習支援者としてさらなる発展に貢献したい
京都造形芸術大学
「仕事」をキーワードにした「リアルワークプロジェクト」におけるTAについて、発表いただきました。大学と地域が連携したプロジェクト(仕事)に従事する学生を、かつての受講生だったTAがサポートする事例を紹介いただきました。
- 北村英之氏(プロジェクトセンター 課長補佐)
- 「芸術で社会を変える」
- 芸大生と社会を結ぶ
- プロジェクトセンター(2005~)
- 参考:CiNii 論文 - PROJECT TALK プロジェクトセンターが立ち上がりました。--芳賀徹×大野木啓人
- PBL型教育の企画・運営
- 基本姿勢は、プロジェクトは「仕事」
- 業務委託契約と適正な対価
- 2010年よりTA制度を導入
- 最大の目的は「仕事」としての質の向上
- そのための教職員のサポート
- 教育・仕事のいずれかの側面に重点を置くかはプロジェクトによる
- 授業内の出席管理やミーティング進行、技術指導、学生・教員とのコミュニケーションの他、クライアントとの連絡・渉外を受けもつ
- TAは原則プロジェクをの経験者
- 決定権は教員にあるが、慣習的に前年度TAが候補を指名する(8-9割、それで決定する)
- レポートの提出が義務
- 月ごとに活動時間を管理し、アルバイト扱いになる
- 水平と垂直の関係に身を置く中間管理職
- キックオフからゴールに導く(水平)
- 学生と教職員を結ぶ(垂直)
- 中間でいることは、二重でいること
- 補助者であり、時に意見をいうことを我慢することもあるが、TA自身にも信念やポリシーがある。
- TAミーティングで受講生だった経験をもとに、TA間や教職員とのコミュニケーションを生み出す
- プロジェクト活動とそれを担う教職員の省察を促す⇒FD/SD的存在としてのTA
- ○○以上○○未満
- 吉田瑞希氏(芸術研究科芸術表現専攻総合造形領域修士1年 陶芸)
- 近代産業遺産アート再生プロジェクト「まか通」に2010年より所属
- 2013年度にTAとして活動
- TAとしての行動計画
- どんなチームにしたいか、そのために自分はどう振る舞うかという指針を立てて行動した
- 4-9月はミーティング前に職員と打ち合わせをし、ミーティング中はリーダーやメンバーに確認をとる
- 10月以降はリーダーと打ち合わせをし、ミーティング中は静観する
- どんなチームにしたいか、そのために自分はどう振る舞うかという指針を立てて行動した
- 鍾馗ワークショップ
- 前日に場所変更やリーダーの体調不良、さらに自分の院試が重なる事件
- 自分がいなくとも、主体的に学生が動き、ワークショップを成功させた
- 東山カルタ大会
- ミーティング当日に誰もアイディアを提出できなかった事件
- 当時、受講生だった立場から、TAと学生との信頼関係が大切だと実感
- 私たちにとってのTAとは
- 伸ばす、人を動かす、ねじ、裏方、他者を知り己を知る…等など
関西大学
LA(Learning Assistant)を講義の中に取り入れている事例を紹介いただきました。三浦先生の資料によると、2014年度は72クラスに84名のLAが活動されているそうです。先生が担当されている「大学教育論〜大学の主人公はきみたちだ!」の様子を報告いただきました。
- 山本綾香氏(文学部総合人文学科4年)
- 最初にクイズを出しながら、「子供の視点」⇒「大人の視点」≒「学ぶ視点」⇒「教える視点」について問題提起
- 1回生の時に憧れたLAの先輩
- 2回生からLAとしてスタートするものの課題も多く
- マニュアルがない
- 何をすればいいかわからない
- .学生FDサミットに参加
- 自分は「何ができるか」
- 3回生にはLAの勉強会の企画、フォーラムへの参加で自分に自信がついた
- その反面、グループワークで思わず、答えを全部言ってしまったことがきっかけで、受講生から視点が離れていることを自覚
- 再び、受講生の立場に戻ろうとする努力を重ねた
- LAは学生が授業を通じて学ぶ楽しさにたどり着くサポートをする存在
- 三浦真琴教授(教育推進学部・教育開発支援センター)
- アクティブ・ラーニングは手法ではない
- 問いを作る、問いを構造化する
- 「学生とともに」の意図するところは「履修者以外の学生をつれてくる」という
- 初年次教育において、「知的プロセス」の想像的・創造的体験を書くとする授業をわかりやすい「かたち」で展開するためのLA
- 「大学教育論」の最後に流したビデオメッセージを視聴
- 愉快な仲間たちという感じで楽しそうだった
同志社大学
2006年度から設置されたPBLを基本とする「プロジェクト科目」について、それをサポートするSA・TAの事例を発表いただきました。参考:
CiNii 論文 - PBLの学びを最大値にするために : 同志社大学プロジェクト科目の場合に即して (特集 大学教育の質的転換に向けて : PBLの有効性について)
- 伊達立晶教授(文学部 プロジェクト科目検討部会)
- 全学共通教養科目で、毎年20クラス程度開講
- 学内外からテーマを公募して決定
- プロジェクト科目におけるSA/TAは学生であると同時に、教育に関わる一員
- 1クラスに1名任用
- SA/TA説明会の実施、SA/TA協議会の開催
- 教員に対しては、授業運営サポート
- CNS(キャンパスネットワークサービス)を使わず、LINEなどを連絡手段にしているため、進捗状況を定期的に報告
- 学生に対しては、先輩アドバイザー
- 履修生の授業への出席を促進
- 学外との渉外担当(これは授業ですという姿勢を伝える)
- 活動報告書の作成と提出
- 木村貴幸氏(政策学部政策学科4年)
- プロジェクト科目「音楽は心の薬」の受講生(2013)で、「伏見地域活性化プロジェクト」のSA(2014)
- 2014年度プロジェクト科目春学期成果報告会では、前者は特別賞を、後者は優秀賞を受賞(すごい)
- SAは自分で仕事を作らなくてはならない
- 伏見プロジェクト
- 伏見稲荷への観光客が少ない理由は?という問いを立てる
- 仮説を検証する(英語表記の看板が少ないからでは?という仮説のもと、フィールドワーク)
- 結論を導き、対策をたてる(海外の観光客にとって楽しみ方がわかりづらい→イベントを実施)
- SAは俯瞰的な視点
- 学生を見る視点:仲介、ファシリテーター、準備、情報提供、メンタルケア
- 先生を見る視点も含まれる
- ルーティン・ワークではない、先生や生徒のカラーによっても仕事がかわる
- よくある課題
- 時間が足りない(主体性の高まりが遅い)
- イベント屋になる(学術的なとりくみになっているか、授業外のインプット不足)
- 授業時間外の使い方
- リサーチを個人作業、授業で全体作業
- インプットが不足、SAの支援
- チームの人間関係
- 成果報告会で次年度のSAに引き継ぐ
- 学術性を高めるインプット
- プロジェクトを通じて座学の重要性が分かる
- 資料集め、資料の読み込み
- 人文系のプロジェクトはなんとなくでも出来てしまう側面がある
- プロジェクトを通じて座学の重要性が分かる
- SAはサービスエリア
第2部<学生によるパネルディスカッション>
全文書き起こしは難しかったので、要点と印象に残った点をまとめます。
- 受講生間にある熱量の差について
- 学生間の関係性をよくするように立ち振る舞う(寄り添う)
- 関わる期間が長いのか、短い(半期)のかにもよってできることが変わる
- メンバーをTA的な存在に育てる
- 科目への関心・愛着
- メンバーへの愛着がプロジェクトへのモチベーションにつながることも
- ミーティングを重ねるだけでは溝が広がることも
- それ以外で補う(インフォーマルコミュニケーション)
- 一人ではできない課題設定(チームでやろうという動機付け)
- 自分の守備範囲外をフォローできないが、学生自身がたてた問いは学生は愛着を持つ
- 関心や愛着の差を「違う視点を知る機会」を捉える。発言の少ないひとに質問をし、傾聴することでチームはよくなる
- 支援者が「問いかける問い」とは。質問の質とタイミングの重要性に気がつくきっかけ
- 何かを質問することは恥ずかしくない、と思わせる
- 学生に問いかけて返答があり、さらにその学生が苦手を克服した時。そもそも「何が分からないかが分からない」
- 議論の場とは「信頼関係」「安心」のこと
- 支援者の経験がどう生きるか
- 教員志望の学生にとってはプレFD
- 何をどこまで関わるか、寄り添うだけでは足りない
- 学習支援者は何と何をつなぐか
- 大学と臨床現場(堀井氏)
- メンバーとリーダー、メンバーと教員(吉田氏)
- 学生と学び(山本氏)
- 義務感と気持ち(木村氏)
- 学習支援者の経験の汎用性
- 反転授業に生かせる?”普通の授業”には活かせられない??
- ノートの取り方
- 学習支援者は支援者であり、学生であり、「評価者」
- 支援者である学生の成長がその証
感じたこと
もう、すでに冒頭でも書いたが、学ぶことはそもそも楽しいことなんだと改めて思いました。発表されたみなさん、とてもキラキラ楽しそうでした。アクティブ・ラーニングは、それに気がつく授業のひとつのあり方なのかと思いました。これを自分に引きつけて考えると、初年次に「大学ってすごい!」という期待感を抱かせる一端を担えるようなしかけを、できたら面白いかなと。
また、学問的足腰の強さが大切になるということは、特に聖路加国際大学の堀井さんと、同志社大学の木村さんが直接、言及されていましたが、何か(プロジェクトなり何なり)を動かすには、その基礎知識が必要になり、それには授業外の自学が欠かせないという点です。図書館的には後者にコミットする割合が多いのかと。