klarer-himmel13's diary

(旧)図書館の中では走らないでください!から

『情報の評価とコレクション形成』(わかる!図書館情報学シリーズ第二巻)

長いタイトルになってしまったが、最近よんだ1冊。


ここ数年のうっすらした自分のテーマのひとつに、評価があった。図書館に関係すると、コレクションの評価になるのかもしれないけれど、もう少し広い視点から論じたものはないかなぁと思って読んだのが『情報の評価とコレクション形成』。9名の著者によるオムニバス講義のようになっている。

第1部 情報の評価
第1章 利用者の視点にもとづく情報と情報源の評価 齋藤泰則(明治大学
第2章 学術情報の評価 小野寺夏生(筑波大学名誉教授)
第3章 ウェブ情報源の評価 佐藤翔(同志社大学
第4章 蔵書の評価と資料選択 大場博幸(文教大学

前半のテーマが情報の評価である。1章ではまず、「情報要求を充足し評価されるとはどういう状態なのか?」という問いに対して、適合性、迅速性、利便性といった評価基準を細かく整理しなおすところから始まる。OCLCの図書館の情報源とウェブの情報源の比較調査などを引用しながら、利用者の視点からの評価基準について展開する。次に適合性について、問題解決において情報源を適合性で評価する際に、利用者の認識に応じて変化するということが指摘される。それを受けて、レファレンス(インタビュー)を取り上げ、利用者の不確定性を縮小する点を数量化した。ある情報要求Aとそれに対する情報B、Bに一定の評価をつけられる…ということだけではなく、インタビューにおいてAが変化することで、適合性もまた変化するということが示された。

www.oclc.org

2章では、情報を学術情報に絞り込み、評価の目的を(1)よりより研究成果を出すための支援(2)重要な情報の選別(3)研究管理(4)学術情報流の高度化・効率化の4つに分類した。学術情報の計量データを用いた評価の代表例として、論文数、被引用数/論文閲覧数、オルトメトリックスを取り上げそれぞれの特徴や課題などを整理した。

3章は内容ではなく媒体で切り分るというアプローチがされている。ウェブ情報源を信憑性(信頼性+専門性)、安定性、評判、依拠可能性の観点から評価基準を整理し、具体例としてウィキペディア、Q&Aサイト、SNSを取り上げた。つづく4章も媒体からのアプローチであり、蔵書評価と選書という物理体がテーマになる。まず、既存の評価基準であるチェックリスト法、蔵書新鮮度、入館者数と貸出数の概要と課題が紹介され、後半は資料選択について、主に公共図書館を具体例に理念について議論が展開される。

第2部 コレクション形成
第1章 コレクションとは 安井一徳(国立国会図書館
第2章 日本の図書館のコレクションの現状 大谷康晴(日本女子大学
第3章 学校図書館のコレクション形成 河西由美子(鶴見大学
第4章 大学図書館のコレクション 佐藤義則東北学院大学
第5章 文書資料と文書館・アーカイブズ 古賀崇(天理大学

後半はコレクション形成がテーマになっている。まず、1章で図書館コレクションの概論が展開される。電子環境下においてもコレクションは自明ではなくなるにせよ、コレクションが持つ役割が変わらないという指摘がされる。「コレクション「である」という静態的な認識から、コレクション「にする」という動態的で構成的なアプローチ(p.106)」がコレクションに起こり、ディスカバリーPDAなどがそれを支えるという。

2章では、カーリルとWebcat Plusを使った日本の図書館の所蔵状況を調べた大規模実態調査の報告である。章の最後に、所蔵調査を定期的に行うことで廃棄状況がわかると箇所を読んで、面白いなぁと思った。受入基準よりも廃棄基準が難しいというのを最近、感じている。

3章は学校図書館、4章は大学図書館のコレクションについて。3章はあまり読み込めていないが、これを読んではじめて「学校図書館図書標準」のことを知った。


4章の大学図書館については、電子資源を扱うことがもっとも多いためか、電子的コレクションにかなりを割いてある。前半は伝統的なアトキンソンのによる大学図書館が果たすべき機能(報知、資料、歴史、教育、書誌)を整理し、これらの5項目自体は変わらないものの、電子的コレクションの導入により、それぞれの機能のあり方は変化しているという。電子ジャーナル、ライセンス契約、ダークアーカイブ、オープンアクセス、電子書籍などの先には、図書館を超えたコレクションの組織化(HathiTrust、GoogleBooks、Internet Archive,、NDL図書館送信サービス、分担保存)が誕生し始め、図書館単独ではなく、集合的に課題を解決する努力が求められている。ちなみに本筋ではないが、電子的コレクションの強みの一つはログが取れるという点だと思う。コレクションが館内だけでなく、外部への仲介機能を含めたものへと変化するのであれば、統計やログデータのあり方や活用方法も変化するのだろうか?

最後は文書資料について。図書館で文書資料を扱う割合は小さいにせよ、それは貴重資料や特殊コレクションとして所蔵されていることは少なくない。文書資料が持つ様々な特徴、種別、整理における原則(出所ごとにまとめておく等)について端的に紹介されている。