国際社会の中での日本のデジタルアーカイブ:新日本古典籍総合データベースの海外ユーザー調査から
2018年6月23日@大阪学院大学
14:30‐17:00
発表:井原英恵氏
月例研究会案内(情報組織化研究グループ)
修士論文として執筆された調査研究
Hanae Ihara. What are the challenges of presenting Japanese cultural memory through digital archives? : the potential of the Database of Pre-modern Japanese Works for international Japanese studies.
https://dagda.shef.ac.uk/dispub/dissertations/2016-17/External/Ihara_H.pdf (約4.5MB)
サービスを設計し運営するうえで、ユーザの存在は欠かせないものである。物理体として図書館にはその地理的、質量的な特徴からサービス対象というものが設定されている(ある程度は)が、デジタルアーカイブというものはそれらの制約を飛び越えることができる。だからこそ、ユーザをどのように考えるのか、という問題提起がされていた(という私の理解である)。この発表では人文学分野における資料の画像データを中心とした、デジタルアーカイブの分析として「ユーザエンゲージメント」という概念を用いている。
1.デジタルアーカイブと取り巻く状況
2.ユーザーエンゲージメント
- JISC Digitisation Programme (Marchioni, 2009)
- ユーザエンゲージメントという概念を提案
- 提供機関とユーザ(とベンダー)が相互に協力し合う関係性
- 3割のDAが活用されず、休止(アップデートをされず)している
- 成功したDAの共通項がユーザとのかかわり
- グッドプラクティス:British Library Sound Archive、Discovering Literature、Discovering Literature など
- ユーザエンゲージメントという概念を提案
- User Studies for Digital Library Development
- DAに関連する技術への注目は限定されたユーザ理解
- ユーザからのフィードバックやコミュニティ単位でのアプローチはユーザを限定的にしかとらえない
- DAのライフサイクルのなかに取り込む
- DA計画(ここから!)→構築→資料選定→コンテンツの活用
- 「ユーザ」の設定の仕方が鍵となるのか?
- 提供志向ではなく、利活用志向
- 限られたリソースとのバランス
新日本古典籍データベースの海外ユーザ調査
アンケート調査ならびにインタビューまとめ
- 日本以外に研究バックグラウンドをもつ(N=65)
- 日研究の学会メーリングリストへの投稿依頼
- 7/13学会から許可
- ヨーロッパ(60%)と北米(22%)中心
- アメリカの学会からは「日本の古典籍を使うユーザはあんまりいないから」と断られたため、研究者HPから個別に連絡
- アジア圏の研究者は連絡先が不明なことが多かった
- 人文科学(89%)、社会科学(11%)
- 日本語の読解能力は高いユーザ層
- 自己申告によると90%以上が幅広い話題を理解できるレベル
- 新日本古典籍総合データベースの認知度(N=55)
- 知っている(58%)
- おおむね好評
- 機能や表示機能に改善希望
- マイクロ画像を除外する
- Classic Books(古典籍)とJapanese Classic Books(和古書)の違いが不明
- サムネイル表示を帙ではなく資料にしてほしい
- 「早稲田のようにしてほしい」(サムネイルのモザイク表示など)
- 実際はIIIF対応のコンテンツはビューワの機能で実現可能
- 英語マニュアル不在
- 書誌情報への希望
- 日本古典籍総合目録データベースの典拠リンク復活
- 参考文献や所蔵を一覧
- 原本の情報
- 98%が原本閲覧を必要
- 理由を質問項目から削除してしまった…!
- CCの認知度(N=54)
- 新日本古典籍総合データベースに付与を知らない(70%)
- 活用法がわからない(35%)
- DOI認知度(N=55)
- 新日本古典籍総合データベースに付与を知らない(76%)
- 利用方法がわからない(36%)
- 相互運用性への希望
- デジタル画像の利用目的
- 専門を同じくする人・コミュニティが主な情報源(N=32)
- インターフェイス言語(N=56)
- 日本語(37%)
- 英語(18%)
- 両方(45%)
- アンケート調査も89%が英語版を選択
- 日本語上級者であっても
- 英語の書誌情報
- 画像データの一括ダウンロード
- くずし字のテキスト化
- 目録登録機能
- 修正報告機能
- ユーザエンゲージメントの重要性
- ユーザ目線の気づき
- 副次情報
- 反省点
- 小規模な調査
- アジアの研究者不参加
- ある程度、答えが予測できた
- エンゲージメントまで至らず
- 提案
- ユーザへのインタビュー
- フォーカスグループ調査
- ディスカッション
- オープンな問い
- 協働でDAを育てる
3.国際社会のなかでのデジタルアーカイブ
- DAの特徴として国際性を生まれながらにして持つ
- 最初のエンゲージメントの対象
- 海外の文化機関の日本資料専門家
- 日本研究者
- 海外における日本情報の核となる
- アカデミア・専門家という付加価値
- 英語(+各地の言語)で情報発信
- 日本の文化を各地でローカライズする
- 海外ユーザとの交流
- ユーザに近づけるプラットフォームとは?
- 情報がつねに出入りする
- ユーザエンゲージメントの鍵
- ユーザに目を向ける
- ユーザの視点
- ユーザのニーズとは??
質問
- DAプロバイダーはデータを提供し、ユーザがシステムを作るという考えもユーザエンゲージメントか。
- 一側面からそうであるが、そうでないユーザのニーズはプロバイダーがDAに反映させる必要がある
- 新日本古典籍総合データベースの既存の機能以外に要望があったか?
- 欧州の目録ない資料に対して目録登録をしたい
- 書誌の修正投稿機能
- 古典籍の時代区分別(江戸期/それ以前)の調査はしているか?(質問の意図が私がうまく汲めず…)
- していない
- 日本の古典籍に特有の要望はあったか?
- 翻刻の要望があった
- ユーザエンゲージメントはユーザのニーズの把握なのか?
- それも含まれる
- マネジメントの側面からのアプローチも考えられる
- ユーザエンゲージメントのモチベーションは何か?
- 予算獲得、DAの維持と発展
- ウェブスケールディスカバリにおける日本語コンテンツの少なさ
- DSとの連携についての言及はなかったが、初学者を対象に据えると必要
感想
- DAのベストプラクティス紹介のときに、引用文献調査について触れられていた
- とても当たり前というか、大前提な感じで紹介されていたが自館でほとんどやっていない…
- ユーザエンゲージメントにおいて核となる人やコミュニティをいかに見つけるかというのが難しい
- 利用ログ(どこ経由で来たか)が役に立つ事例はあるのかな?(ということが聞きたかった)