読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

klarer-himmel13's diary

(旧)図書館の中では走らないでください!から

講演会「電子図書館の可能性」

行ってきました 図書館

日時:2010年7月16日(金)13:00-16:00
場所:国立国会図書館 関西館 地下1階 大会議室
プログラム:

講演 「理想の電子図書館へ向けて」

長尾 真氏 (国立国会図書館長)

報告 「国立国会図書館の電子図書館の現在」

大場 利康氏 (国立国会図書館関西館電子図書館課長)

パネルディスカッション「電子図書館の可能性」

パネリスト
長尾 真氏 (国立国会図書館長)
仲俣 暁生氏 (「マガジン航」編集人) 
藤川 和利氏 (奈良先端科学技術大学院大学准教授・電子図書館研究開発室長)
大場 利康氏 (国立国会図書館関西館電子図書館課長)
司会
中井万知子氏(国立国会図書館関西館長)

当日、配布された資料はNDLのHPにて公開されています。
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/dl_future.html
また、今回は同時中継と、@ca_tweetによるtwitter中継とハッシュタグ(#dlfuture)の利用も行われました。ここでは自分の見聞きしたことをまとめていきます。
2010/7/17追記
トゥギャッターでまとめていただいた記事です。
http://togetter.com/li/35818

講演 「理想の電子図書館へ向けて」

後半のパネルディスカッションも含め、電子図書館を語る上で、Googleの存在は外せないように感じました。Googleは一つの私企業でありながら、高邁な目標と大規模な事業を行っています。その一つはGoogleブックサーチです。契約した図書館の書籍をデジタル化してきました。
また、Googleは本の販売ビジネスへと展開し、出版社からデジタル化の出版物を受け入れ、出版物に関するメタデータを自らのデータベースに収集していきます。
その一方で、Googleが問題点や危険性をはらんでいることも指摘されます(Google訴訟和解案などは割愛します)
長尾氏は、著作者から読者への一方向の知のありかたではなく、誰もが読者であり、誰もが著作者である時代であるため、著作物の相互利用を促進するべきであると強調されていました。
ただし、知(識)を創造した人には妥当な報酬が与えられること、自国の知的資源は自国で守り、積極的に発信するべきであることは大切なことであり、そのために電子図書館というモデルを提示されました。
国立国会図書館は来館者だけでなく、すべての国民に同等なサービスを提供することが理想であり、そのために図書館資料を電子化して利用者に送信することで、その理想を実現できます。また図書・資料の電子化は冊子体よりも優れた知的で柔軟なサービスを実現できるという点で電子図書館の大切さを述べられました。
電子図書館は現代の技術では実現可能であるということです。ただ、実現のためには制度の壁があり、それをクリアしていく試みや課題が後半では紹介されました。

  • 著作権の問題
    • 著作権者の調査には厖大な時間と費用がかかる
    • 2009年6月の著作権法の改正によって、保存目的であれば権利者の許諾なくデジタル化が可能
    • 著作権者データベースの構想
    • フェアユース既定の導入の必要性
    • 障害者のための改正
    • 許諾権から報酬請求権へ、さらに名誉権へ
    • 文化庁長官の裁定手続きの簡略化
  • 国立国会図書館のデジタル計画

http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/digitization.html

    • 2009年度から2年間で90万冊のデジタル化
    • 図書はデジタル化すべき5分の1にあたる
  • インターネット上の情報
    • ボーンデジタルの情報は消える前に集めなければいけない
    • webアーカイビング事業(通称WARP)
    • オンライン資料収集の必要性
    • 電子書籍の納本
  • 出版会からの危機感
    • 文字テキスト化に対する危惧
    • デジタル書籍の流通システムを工夫して出版社、著者等の権利者に応分の収入が得られるようにする必要がある
    • 電子図書館モデル

上記の電子図書館モデルが「Japan Book Search」と名付けられたモデルです。このモデルは、電子出版物のデータベースを構築することで、日本中の出版物の所在が分かるようになり、そこから電子出版物を購入し、料金は出版社へ支払うというモデルを理想としています。
デジタル化の流れは止まらないでしょう。紙の本はノスタルジーの対象になる日も遠くないかもしれません。
その中で、書物は解体され、必要な箇所を取り出すシステムにより再編集されるようになり、また世界中の電子図書館がリンクされ、知識インフラが作られる、利用者の観点にそったかたちでアクセス可能になる姿を電子図書館の理想として描き出されました。
「知識がわれらを豊かにする」
読書端末装置についても言及がありました。日本での普及のポイントは新聞が読めるかということであろう、ということです。時間が少なかったため、このあたりを詳しく聞くことが出来なかったのは残念でした。

報告 「国立国会図書館の電子図書館の現在」

現場からの報告につづきます。中心は紙の本のデジタル化としての近代デジタルライブラリー、インターネット資料収集保存事業、デジタルアーカイブポータルのPORTAでした。

  • 国立国会図書館の紹介と役割
  • 近代デジタルライブラリー
  • さらなるデジタル化事業
    • 大規模デジタル化(21年度補正予算)
    • 予算規模約127億円(実施規模約90万冊)
    • 電子図書館サービス対象の戦前刊行図書、古典籍資料、官報(〜昭和27年)、学位論文
    • 保存のためのデジタル化として、戦後刊行図書(1945-1968年)、雑誌、その他
  • インターネット資料収集保存事業
    • ウェブサイトの収集とオンライン資料の収集
  • デジタルアーカイブポータル(PORTA)
    • 統合検索の提供
    • 異なるシステム間での相互検索を可能にする仕組みの提供(API)

パネルディスカッション「電子図書館の可能性」

パネリストに奈良先端科学技術大学院大学の藤川和利氏と、「マガジン航」編集人である仲俣暁生氏を迎えました。
奈良先端科学技術大学院大学は、すべての蔵書の電子化、学内で発生する情報の電子化と蓄積、オンラインでの情報提供、図書館と指摘の基本機能を実現した電子司書の4つを基本方針に掲げて学内の電子図書館を構築されています。その経験から、電子図書は閲覧よりも検索に向いているのではということです。また、次世代電子図書館に向けて、電子図書館を核とした情報基盤(情報発信の基地)の確立や、そこから統合的な情報システムを目指しているそうです。
「マガジン航」は、2009年11月に創刊された、仲俣氏によるウェブ上の一人雑誌です。「『マガジン航』創刊にあたって」から引用します。

「本」や「出版」はそもそも、とても個人的な営みです。それが、いつの間にか見えない線引きがなされ、見えない壁に阻まれて、窮屈さの代名詞になってしまいました。もっと自由でありたい。そう考えて、自分たちで見つめ直すことにしました。
『マガジン航』は、「本と出版の未来」を考えるためのメディアであることを志向します。私たちなりの取材をし、討議し、その結果やプロセスを含めた問いかけを、ここに明らかにしていこうと思います。また30年間この仕事に献身してきたボイジャーの創業者ボブ・スタインのプロジェクト、The Institute for the Future of the Bookと提携し、彼らのブログIf:bookからの記事を随時、翻訳・転載していきます。
電子メディアと紙の本、それぞれの現場で「本と出版の未来」について思いをはせている、多くの方の参加をお待ちしています。

仲俣氏より、「本のコンテンツのデータベースは誰が担うのか」という問題提起がされました。
また、電子図書館の問題と電子書籍(ビジネス)の問題は近づきつつあり、それに関連して、大切な事はコンテンツ収集の量よりも、コンテンツ周辺のデータ(メタデータ)ではないかということでした。

以下では、ディスカッションを聞き取れた範囲で記録していきます。間違いや不適切な点などありましたら、コメントいただけると幸いです。

藤川氏:長尾先生へ。一般ユーザにとって、メタデータや再編集の思想、検索機能などはかえって迷子になってしまうのではないか。電子図書館の意義は?
長尾氏:電子図書館は取り出す単位を選択できる。書物は利用者の好みによって解体できる
藤川氏:今は、検索してもトップだけ出てくる。コンテンツを提供する側(出版社)にも工夫が必要。メタデータの改良や標準の作成など
仲俣氏:電子図書館には、紙媒体とは異なる魅力、Googleの方向性(おおむね正しい?)という点で期待している。「検索したらその結果がたまたま、本由来だった」という日がくるのでは。そうなれば、断片化された本と編集された本の意義が両立して、「紙vs電子書籍」という構図は成り立たないのではないか
長尾先生へ。出版社からの長尾ビジョンへの、あるいは無料貸本屋と揶揄される公共図書館への反発についてどう考えているか。この反発は図書館と出版社に接点がないことに一因があるのでは?
長尾氏:長尾ビジョンは、電子書籍の時代のスキームになるので、出版社には図書館も含めてビジネスモデルを作りましょう、という提案であった。電子図書館はGoogleブックサーチと同じ機能を持っている、しかも手数料は取らず、対価も支払う
仲俣氏:Googleは文系出身の人間が多い出版界に、工学を持ち込んだ。大学はこの状況をどう見ているか
藤川氏:電子書籍に対する反発はない。奈良先端科学技術大学院大学は理系の大学なので、理系の視点から見るとGoogleの制度は高い。図書館のOPACよりも使いやすいことも。ユーザは使いやすい方へ流れていくのでは
中井氏:Google国立国会図書館か、第三者機関が本のデータベースをつくるのかという問題に対してどう考えいるのか。その中で公共図書館の役割をどうかんがえるか
長尾氏:国内で官と民が争っている場合ではない。透明性という問題が私企業にはある。公共図書館における電子書籍は何らかの仕組みは必要だが、それは補償金なのか、利用制限なのか、色々な可能性がある
仲俣氏:これからはデジタルボーンのデータが増えるため、いっそうメタデータが大切になってくる。カーリルの一例。APIの公開の推奨。本のコンテンツが広がっていけば、紙媒体の人も電子書籍の人も色々な人が出てたらいいのでは。その中で、公共図書館でなかればならないことを考えるヒントとして2冊の本を紹介する。Banana fish (1) (小学館文庫)愛のゆくえ (ハヤカワepi文庫)


自分の著作をちゃんと受け止める機関、誰でも知性を身につける場所という「公共性」を持った機関としての公共図書館(公立ということでなく)
フロアよりその1:公共図書館の電子図書館への対応
長尾氏:国立国会図書館としてはその点まで考えるのは難しいが、公共図書館も対応していくのでは
フロアよりその2:「私」レベルの納本やオンライン情報収集、寄贈受受付は考えているか
大場氏:検討しています。今は受付していないが考えていかないと
フロアよりその3:「知識はわれらを豊かにする」とあるが「知識」より「知恵」のレベルをどう考えるか。藤川氏の発表にあった「情報」群から情報間の有機的な関連による「知」の確立という点に感銘をうけた
長尾氏:もともと「知はわれらを豊かにする」も考えていた。発音しにくいのと、図書館が扱うのは「知識」のレベルということで、今のかたちになった
藤川氏:新しい「知」を探求する工学。厖大な「知」を体系化したいという意図がある
フロアよりその4:大学の生産物を大学図書館に蓄積するとしたら、公共図書館は?
藤川氏:流通しないものを蓄積することは意義がある。信頼性の問題から大学図書館としては私的寄贈は難しい。大学の生産物を蓄積することで大学のブランド戦略を打ち立てていくことと比較すると、公共図書館は地域ブランド戦略に一役買えるのでは
大場氏:地域の情報を発信する、図書館が情報発信の主体+アーカイブとなる
フロアよりその5:デバイスの問題。電子書籍の安定性をどう考えるか
仲俣氏:電子書籍は著作提供サービスのかたちであって、「本」ではない。「本」ではなく「著作」を残すべき
藤川氏:音楽のように見せ方が変わる。現在の方向性で間違っていないと思う
また最後に
仲俣氏:NDLのサービスが知られていないのはもったいない
長尾氏:今の電子書籍をめぐる混乱は、5年以内には落ち着く。その中でNDLが果たすべき役割を果たせるようがんばっている

会場はもとより、中継の方も盛り上がっていた3時間でした。twitterと中継が入った講演会は、「21世紀の科学技術リテラシー第3回シンポジウム」以来です。twitterのタイムラインも会場で映しながら、ディスカッションが進むと面白いかもしれません。
最後に明日(正確には今日ですが)、登壇された長尾氏や仲俣氏が関わっていらっしゃる『ブックビジネス2.0 - ウェブ時代の新しい本の生態系』が発売されます。

ブックビジネス2.0 - ウェブ時代の新しい本の生態系

ブックビジネス2.0 - ウェブ時代の新しい本の生態系