眉丈文庫に行ってきた@富山県高岡市+私立図書館について
少し前になりますが、富山県高岡市にある私立図書館「眉丈文庫」を訪れる機会がありました。
財団法人 眉丈文庫 - 類縁機関名簿詳細
asahi.com(朝日新聞社):80年続く「私立」図書館 財政難でも「守り抜く」 - ひと・流行・話題 - BOOK
昭和2年10月に「故・金田眉丈の私財を基金として、高岡市商工業の改良進歩に資することを目的として発足。その後図書館に発展したもの」だそうです。
自分の中で図書館の公共性、というのが関心事としてあったのもあり、夏の旅行を兼ねておじゃましてきました。
昔の面影が多く残っている街(住宅とお店がある)中にこのような建物があります。元々は隣の自宅で文庫を公開されていたようですが、後にこちらへ移られたそうです。
建物は地下1階(書庫)、1階(子供)、2階(大人)、3・4階は事務スペースです。写真は入口入ってすぐのソファです。天井にはモビールがかかっていました。他にも手作りのポップなどがたくさんありました。
かわいいペンギン。
蔵書は約60,000冊、スタッフは館長さんを含めて6名で運営されているそうです。
館長さんは「小さな図書館ですので」と謙遜されていましたが、蔵書がとても魅力的でした。美術関連書と児童書を主に収集されているそうです。それ以外の分野もひと通りカバーされていました。開架だけを見学しましたが、一緒にいった友人いわく「ここの本棚にあることで面白い本に出会える気がする」と。選書はスタッフさんの手によって行われているそうです。見計らいも新刊本に限って最近、行うようになったそうです。
個人的ツボだった「てにをは辞典」。表紙がかわいい。写真は撮らなかったですが、「北陸のきのこ図鑑」にもときめいた。
館長さんは半世紀以上にわたって眉丈文庫に関わっておられる方です。開館日は毎日カウンターに座り続けて来られたそうです。顔なじみの方が、館長さんがいない日があると「どうしたの?」と他のスタッフさんに聞いてしまうくらい、眉丈文庫の顔であり、歴史のような素敵な方でした。近所の中学生と帰り道が一緒になったのですが、定期的にここに通ってきているそうです。確かに近所にあれば通いたくなるかもしれません。その他にもお話を聞かせていただきましたが、富山にもかつては私立図書館が16館ちかくあったそうですが、時代とともに少なくなっているそうです。
最初の朝日新聞の記事によると
戦前は篤志家による私立図書館が珍しくなかった。国の調査では、1940年度当時、全図書館の約3割、1324の私立図書館があった。しかし終戦後の47年度には164館に減少。08年度の日本図書館協会の調査では全国で20館しかない。
この「私立図書館」について、ちょっと調べてみたことのメモ:
設置及び運営上望ましい基準
私立図書館に関するトピックとしては平成20年6月に図書館法が改正され、「設置及び運営上望ましい基準」の対象を私立図書館に拡大されたことが最近のトピックのようです。この望ましい基準については2012年8月22日に、「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」の改正に関する意見が、現在募集中です。
「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」の改正に関する意見募集の実施について - パブリックコメント:意見募集中案件詳細|電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
この基準から私立図書館に関するところを抜き出すと
1.基本的な考え方
3.これからの図書館に求められる「設置及び運営上望ましい基準」の視点
(2)図書館法の改正への対応
平成20年の図書館法改正により盛り込まれた以下の内容を反映する。
1「設置及び運営上望ましい基準」の対象が私立図書館に拡大されることに伴い、私立図書館に関する規定を新たに設ける。
平成20年の図書館法の改正において、新たに図書館法第7条の3(運営状況に関する評価等)の運営の状況を評価すること及びその結果に基づいた運営を改善することが規定された。図書館運営において公益性が求められる私立図書館にも適用されることとなった。私立図書館の基準の規定については以下の点に留意することとする。
(留意すべき点)
・ 私立図書館は、当該図書館を設置する法人の目的と図書館設置の目的に基づき、必要な資料及び情報の収集等を行い、一般公衆の利用に供し、その教養等に資すること。
・ 新基準は、私立図書館の設立の理念やその有する専門性に基づいた運営を行う上での概括的な望ましい基準(目標とすべきもの)であり、自律的な運営を妨げるものではない。(図書館法第26条に規定するノーサポート・ノーコントロールの原則を変更するものではない。)
2.「設置及び運営上望ましい基準」の具体的な内容
1. 図書館法改正を踏まえて新たに盛り込む内容
1 図書館における評価の実施やその結果に基づく運営の改善に関する包括
的な努力義務規定(図書館法第7 条の3関係)
・ 私立図書館においては、自ら点検及び評価を行うとともに、点検評価の結果に基づき運営の改善を図るため必要な措置を講ずるよう努めるものとすること。
(中略)
・ 私立図書館においては、運営状況に関する情報を積極的に公表するよう努めるものとすること。
図書館法
私立図書館は、図書館法第二条において「図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資することを目的とする施設」で、「日本赤十字社又は一般社団法人若しくは一般財団法人の設置する図書館」と規定されています。
2008年12月には、公益法人制度改革によって「民法第34条の法人」が「一般社団法人及び一般財団法人」に変更されました。旧民法34条の法人は、特例民法法人として損座奥するが、5年間の移行期間の間に一般社団・財団法人の許可申請をするか、公益社団法人・公益財団法人の公益認定を受けることとなったそうです。*1
私立図書館には「ノーサポート・ノーコントロール」という原則があります。上の論文を読むまで知らなかったのですが、
(国及び地方公共団体との関係)
第二十六条 国及び地方公共団体は、私立図書館の事業に干渉を加え、又は図書館を設置する法人に対し、補助金を交付してはならない。
恥ずかしながら今回、この原則がそもそもあることを初めて知ったのですが、サポート(お金)と私立図書館の独自性がどういった関係なのか、不思議だなぁと思いました。補助金で運営されても、組織の独自性を維持して収益を上げて、かつ公共的な活動をすることは可能だと思いますが(たとえば劇場とか?)、別の論理が働いているのでしょうか。
「ノーサポート・ノーコントロール」について、天谷氏によると、1957年の富山での全国図書館大会を契機に私立図書館への不干渉の削除を含んだ「図書館法改正草案」が定期されました。しかし、この活動は徐々に終息に向かうこととなったそうです。1960年の福島での大会において伴米蔵(1913-1995、近江兄弟社)による以下の発言がなされました。*2
「現行の図書館法でのノータッチ・のーさの原則から自由と引き換えに僅かな補助金はもらわなくとも良い。しかし、理事者側は町その他が報酬を出すのが当然のように考える向もあるが、私共はあくまで奉仕の立場からそうは思わない」
この発言は『図書館雑誌』54(1)に掲載されているようです。こちらは1次資料は未確認です。
私立図書館の館数
私立図書館が減っているという朝日新聞の記事もありましたが、「届出制度が廃止されてから、公的に私立図書館の館数や実態を把握している機関はない」*3そうです。再び、藤田氏の論文によると、文科省『社会教育調査(17年度)』によると24館、日本図書館協会『日本の図書館2009』によると20館、専門図書館協議会『専門情報機関総覧2009』によると、法人が設置している図書館は184法人で、社団法人は41、財団法人は143だそうです。
30年近く前のデータですが、1984年版『日本の図書館』には30数館が私立図書館として掲載されているようです。この30年で2/3減少したことになります。*4
最後に
訪問した眉丈文庫は利用のために料金は徴収されていないようです。
例えば大学図書館においても地域貢献、がひとつのキーワードとなっている昨今、図書館のもつ公共性(あるいは図書館が提供する公共圏?)って何だろうというのが今回、感じたことでした。
公共性とは別に、図書館の魅力のひとつに蔵書って大切だよなと改めて、感じたこともまた然り。選書をする機会にはもっと工夫したいです。